京都地方裁判所 昭和58年(わ)1205号 判決 1985年3月12日
本店の所在地
京都市中京区西ノ京中保町六四番地
法人の名称
株式会社 長村組
代表者の住居
同市右京区字多野御池町六番地
代表者の氏名
長村静枝
代表者の住居
同市西京区桂坤町四八番地
代表者の氏名
真鍋語
本籍並びに住居
同市右京区太泰安井車道町二一番地の二六
会社役員
澤野幸太郎
明治四四年三月一二日生
本籍
同市中京区西ノ京笠殿町一四番地
住居
同市左京区修学院薬師堂町二八番地の六
会社役員
池田英夫
昭和六年五月一日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官関本倫敬出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告会社株式会社長村組を罰金一六〇〇万円に、被告人澤野幸太郎、同池田英夫をいずれも懲役一〇月に処する。
被告人澤野幸太郎、同池田英夫に対し、いずれもこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社株式会社長村組は、京都市中京区西ノ京中保町六四番地に本店を置き、土木建築請負業を営むもの、被告人澤野幸太郎は昭和四三年二月から同五九年までの間被告会社の代表取締役として業務全般を統括掌理していたもの、被告人池田英夫は同四三年二月から専務取締役として被告人澤野幸太郎の右業務を補佐していたものであるが、被告人両名は共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て
第一 昭和五四年九月一日から同五五年八月三一日までの事業年度における被告会社の所得金額は六〇〇九万八四四〇円で、これに対する法人税額が、一六一四万六〇〇円であるにもかかわらず、公表経理上、役員報酬従業員給料及び賞与を水増し計上するほか、架空労務費を計上するなどの行為により、その所得金額のうち三七二八万五五〇四円を秘匿した上、同五五年一〇月三一日、京都市中京区柳馬場通二条下る等持寺町一五番地所在の所轄中京税務署において、同税務署長に対し、所得金額は二二八一万二九三六円で、これに対する法人税額が、一二二万六二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額一六一四万六〇〇円との差額一四九一万四四〇〇円を免れ
第二 同五五年九月一日から同五六年八月三一日までの事業年度における被告会社の所得金額は三億二七四〇万七二二八円で、これに対する法人税額が一億二四六〇万円であるにもかかわらず、前同様の行為により、その所得金額のうち六九四一万七七一二円を秘匿した上、同五六年一〇月三一日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額は二億五七九八万九五一六円で、これに対する法人税額が九八一五万二五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額一億二四六〇万円との差額二六四四万七五〇〇円を免れ
第三 同五六年九月一日から同五七年八月三一日までの事業年度における被告会社の所得金額は二億四七六八万四九五七円で、これに対する法人税額が九一〇〇万七八〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、その所得金額のうち六六二四万六一八一円を秘匿した上、同五七年一一月一日、同税務署において、同税務署長に対し、所得金額は一億八一四三万八七七六円で、これに対する法人税額が六四六七万三六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同事業年度の正規の法人税額九一〇〇万七八〇〇円との差額二六三三万四二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人澤野及び同池田の当公判廷における各供述
一 証人池田稔の当公判廷における供述(但し、被告会社及び被告人澤野の関係においては第六回公判期日における供述を除く。)
一 被告人澤野(検70、71)及び同池田(検83、84)の検察官に対する各供述調書
一 被告人澤野(検63ないし69)及び同池田(検75ないし82)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 証人池田稔に対する当裁判所の尋問調書(被告会社及び被告人澤野の関係において)
一 池田兼子(検32、33)谷澤早苗(検34)、河本慶之助(検35)、阪本憲雄(検36)及び人見幸夫(検37)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の現金預金有価証券等現在高確認書(検38、39)
一 国税査察官作成の査察官報告書(検40)
一 池田稔の大蔵事務官に対する質問てん末書(検11)
一 松原法喜の大蔵事務官に対する質問てん末書(検19)
一 松原法喜の検察官に対する供述調書(検20)
一 大槻美弥子の大蔵事務官に対する質問てん末書(検21、22)
一 長村静枝の大蔵事務官に対するてん末書(検25)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(検42、43、45ないし56、58)
一 長村静枝(検101、102各抄本)、田中重太郎(検103)、真鍋語(検104、抄本)、木下弘一(検105、抄本)処び山本徹(検106、抄本)の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の査察官調査書抄本(検107、108、109)
一 押収してある賃金台帳二綴(昭和五九年押第四八号の1、2)、預貯金等の内訳書二綴(同押号の3)、預金等の明細表二綴(同押号の4)、報酬給料支払明細書、人別支払明細書等一綴(同押号の5)預貯金等の内訳書二綴(同押号の6)及び追給料計算書四綴(同押号の7ないし)
判示第一の事実につき
一 大蔵事務官作成の証明書(検2)及び脱税額計算書(検6)
判示第二の事実につき
一 大蔵事務官作成の証明書(検3)及び脱税額計算書(検7)
判示第三の事実につき
一 大蔵事務官作成の証明書(検4)及び脱税額計算書(検8)
(弁護人の主張に対する判断)
一 弁護人は、被告会社が各役員に対し帳簿上「その他手当」の名目で計上していた金額(但し、真鍋語及び木下弘一についてはその一部)につき、これは役員報酬として支給されたものであり、ただ、これを毎月実際に支給することなく、被告会社が預り保管したうえ、毎年六月、一二月にこれを返還していたのであり、右は賞与として支給されたものではないから、損金に算入されるべきである旨主張する。
しかしながら、前掲各証拠によれば、(一)被告会社においては各役員につき毎月「その他手当」を計上していたが、これは毎年一月に決められた年間賞与支給相当額の六割の金額を一二等分したもの(但し、一部役員についてはその余の分をも含む。)で、それ以外に報酬としての何らかの趣旨(管理職手当、住宅手当等)があるものではないこと、右「その他手当」は被告会社において各役員の意思にかかわらず各月に支払うことは全く予定されておらず、各役員においてもこれを各月に受領することは全く予期していないこと、各役員に対し給料計算書は手交されるが、「その他手当」につき計算書は作成されておらず、各役員はその具体的金額を知らないこと、各役員において「「その他手当」は本来各月に受領すべきであるがこれを会社に預け、六月、一二月にその返還を受けている」との意識はなく、毎年六月、一二月に賞与を受領するが、右金額を税務処理上損金とするため「その他手当」としての処理をする旨説明されていること、(二)被告会社においては、社内に留保した「その他手当」相当額を公表帳簿上は一切記載せず、裏帳簿にこれを記載していたうえ、預り金としての経理処理はせず、各役員に対する「その他手当」相当額を特定して区々に管理することなく、他の裏金と混合管理しており、また、その管理の状況、経過について各役員は何ら説明を受けていないこと、(三)「その他手当」計上額は預り金の返還としてではなく他の従業員の賞与支給時期である毎年六月、一二月に賞与として支給されていること、右支給額は各年の六月、一二月にその時期の賞与支給基準に従って改めて決定されていたこと。
以上の事実が認められ、右のように被告会社においては帳簿上「その他手当」として一定額が計上されてはいたが、被告会社、各役員いずれにおいても、真意として、各月「その他手当」を報酬として支給し、あるいは支給を受け、これを預り保管し、あるいは保管に委ねたとの意思はなかったのであるから、被告会社において法律上有効なものとしてその他手当を報酬として支給し、これを預り保管していたとは認められず、また、その後の保管状況、毎年六月、一二月の支給状況は形式的にも実質的にも預り金の保管及びその返還とみることはできない。
よって、弁護人の右主張は採用できない。
二 次に、弁護人は、「その他手当」が仮に報酬でなく賞与であるとしても監査役真鍋語、同木下弘一に支給された分の全部及び専務取締役池田英夫に支給された分の一部は使用人賞与として損金に算入されるべきである旨主張する。
しかしながら、法人税法三五条五項、同法施行令七一条は、専務取締役、監査役を使用人兼務役員から除外しているところ、これは、これらの者については、現実に従事している具体的職務内容により専務取締役ないし監査役としての職務と使用人としての職務を分割することなく、形式的、画一的に使用人兼務役員から除外しているものと解せられ(なお、右施行令七一条が法の委任の範囲を逸脱したものとは解せられない。)従って、専務取締役ないし監査役に対して支給された賞与については、その従事する具体的職務と関係なく形式的一率に全て役員賞与とみなされ、損金算入は許されないものと解せられる。また、法人税法上、ある者が役員とみなされるか否かは、商法上のその選任行為の有効、無効等とは別個に税法上の課税の適否という観点から考察さるべきであり、ある者が監査役として登記され、当該会社において監査役として現にその職務に従事している以上(たとえその職務遂行が形式的なものであったとしても)、法人税法三五条、同法施行令七一条の関係においてはこの者を監査役とみなし、これに対して支給された賞与については役員賞与として損金に算入されえないと解すべきところ、前掲各証拠によれば、真鍋語、木下弘一が右の意味での監査役であったことは明らかである。
以上によれば、専務取締役池田英夫、監査役真鍋語、同木下弘一に支給された役員賞与はいずれも損金に算入されえないものであって、弁護人の右主張は採用できないところである。
三 更に、弁護人は、被告らにはほ脱の犯意がない旨主張するが前掲各証拠によれば、被告人らが、「その他手当」として計上した額について、実質的にはこれが賞与として支給されたものであり、「その他手当」の名目は単に税務当局に対する形式的な帳簿上の取扱いにすぎないことを認識していたことは明らかであって、ほ脱の犯意に欠けるところはないから、弁護人の右主張も理由がない。
(法令の適用)
判示第一の所為 被告会社につき 昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条
被告人澤野、同 刑法六〇条、六条、一〇条、右改正前の法人税法一五九条
池田につき (懲役刑選択)
判示第二、第三の所為 被告会社につき 法人税法一六四条一項、一五九条
被告人澤野、同
刑法六〇条、法人税法一五九条(懲役刑選択)
池田につき
併合罪加重 被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項
被告人澤野、同 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条
池田につき (刑及び犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)
執行猶予 被告人澤野、同
刑法二五条一項
池田につき
よって主文のとおり判決する。
昭和六〇年三月二九日
(裁判官 松丸伸一郎)